top of page

従業員の生産性は、経理データでどう見ればいい?

6 時間前
読了時間: 12分
従業員の生産性は、経理データでどう見ればいい?

従業員の生産性を経理データで見るときは、まず会社全体や部門ごとの粗利を、人数と労働時間に照らして確認します。さらに人件費の負担、手戻りや残業、仕事の内容を合わせて見ると、売上だけではわからなかった改善点が見つかります。


ただし、経理の数字だけで「誰が優秀か」を判断することはできません。担当する仕事、経験、顧客の条件、教育や応援の役割によって、数字の出方は変わります。最初は個人の順位付けではなく、チームの仕事を進めやすくするために使うと、現場とも話し合いやすくなります。


この記事では、中小企業で取り入れやすい指標と計算例、数字を比較するときの注意点、毎月の運用方法を説明します。金額は特記のない限り税抜で、計算例はすべて説明用の架空のものです。


最初は「1人当たり」と「1時間当たり」の粗利を見る


生産性は、使った人手や時間に対して、どれだけの成果が得られたかを見る考え方です。日本生産性本部も、労働者1人当たり、または労働1時間当たりの成果として労働生産性を説明しています。成果には生産量や付加価値額など、目的に応じたものを使います。



日々の経営管理を始めるなら、会計データで確認しやすい粗利を使う方法があります。粗利は売上高から売上原価を引いた金額です。たとえば小売業では、売上が増えていても商品の仕入原価がそれ以上に増えていれば、会社に残る粗利は減ることがあります。


ここで使う「粗利÷人数」「粗利÷労働時間」は、社内管理用の指標です。公的統計や制度で使う付加価値労働生産性と同じものではありません。他社の数値や補助金等の基準と比べるときは、計算式と対象範囲を確認する必要があります。


確認する指標

計算方法と見方

1人当たり粗利

粗利÷同期間の平均人数。人員規模に対する粗利を見る

1時間当たり粗利

粗利÷同期間の総実労働時間。勤務時間の違いを踏まえて見る

粗利に対する人件費の割合

人件費÷粗利×100。粗利から人件費をどれだけ負担しているかを見る

1時間当たり人件費

人件費÷総実労働時間。会社側の人件費負担を時間換算する


このうち、1時間当たり人件費は従業員の時給そのものではありません。給与だけでなく、会社負担の社会保険料や賞与などを含めると、給与明細の金額とは異なります。また、粗利から人件費を引いた残りが、そのまま最終利益になるわけでもありません。家賃やシステム利用料なども負担するためです。


人数だけで比べると、勤務時間の違いを見落とす


正社員と短時間勤務の方が混在する会社で、全員を一律に1人と数えると、働く時間が短いチームほど1人当たりの数字が小さくなりやすくなります。そこで、人数の指標と総実労働時間の指標を並べます。


人数を使う場合も、月末時点の人数だけを使うのか、月中の入退社を反映した平均人数を使うのかを決めます。最初から細かく計算しすぎず、継続できる方法を選び、途中で方法を変えたらその月の資料に理由を残しておくと比較しやすくなります。


計算例:売上の多いチームのほうが、生産性も高い?


同じ商品群を扱う小売会社に、A・Bの2チームがあるとします。以下は1か月の比較です。売上原価は商品の原価で、表の人件費は原価に含めていません。両チームはそれぞれ平均5人で、共通の管理業務を除く集計範囲をそろえています。


月次の項目

Aチーム

Bチーム

売上高

1,000万円

800万円

売上原価

600万円

440万円

粗利

400万円

360万円

平均人数

5人

5人

総実労働時間

1,000時間

800時間

人件費

240万円

200万円

1人当たり粗利

80万円

72万円

1時間当たり粗利

4,000円

4,500円

粗利に対する人件費の割合

60.0%

約55.6%

1時間当たり人件費

2,400円

2,500円


売上と1人当たり粗利はAチームのほうが大きい一方、1時間当たり粗利はBチームのほうが高くなっています。Aチームは400万円÷1,000時間=4,000円、Bチームは360万円÷800時間=4,500円です。同じ5人でも、使った時間に差があるためです。


一方、1時間当たり人件費はBチームのほうが高くなっています。時間当たりの人件費が高いという理由だけで、Bチームの費用を削るべきとはいえません。粗利を生む力と、会社が負担する費用を合わせて見る必要があります。


数字の差を見つけたら、現場へ理由を聞く


この表だけで「Aチームは非効率」と決めるのは早いでしょう。Aチームが新人教育を担当している、対応に時間のかかる顧客が多い、返品対応や他チームの応援を担っている、といった事情があるかもしれません。


反対に、同じ内容を二つのシステムへ入力している、承認待ちで作業が止まる、商品の探し物に時間がかかるなど、仕組みを変えれば減らせる作業がある可能性もあります。まずは違いの理由を確認し、従業員の努力で変えられることと、会社が整えるべきことを分けます。


改善前後は、時間・利益・品質をセットで比べる


Aチームで重複入力を減らし、粗利400万円を維持したまま総実労働時間が900時間になったとします。1時間当たり粗利は約4,444円となり、4,000円から約11.1%改善します。


ただし、減った100時間がそのまま人件費の削減になるとは限りません。月給が変わらなければ人件費は同じこともあります。その場合は、残業の抑制、休みやすさ、追加の受注への対応、新人教育などに生まれた余力をどう使うかが次の課題です。


新しいシステムに月3万円かかるなら、その費用も確認します。残業代が実際に月5万円減れば、他の条件が同じ場合、月額費用差は2万円の改善です。残業代が減らないなら、短期の費用だけでは3万円増えます。時間の改善と現金支出の改善を分けて説明すると、効果を過大に見積もらずに済みます。


入力ミスや顧客からの問い合わせが増えていないかも確認してください。必要な確認を省略して早くなっただけなら、後から修正やクレーム対応が増えるおそれがあります。処理時間だけでなく、再作業の件数や納期も一緒に記録します。


比較する前に、数字の集め方をそろえる


生産性の比較で迷いやすいのは、計算よりも「何を含めるか」です。同じ粗利という名前でも、会社や業種によって原価の中身が違います。まずは次の点を確認し、簡単な集計ルールとして残します。


1.売上と費用を同じ期間で集計する


入金額をそのまま当月の売上として使うと、前月分の回収が多い月に生産性が高く見えることがあります。基本は、会計上の売上計上額と、それに対応する原価を使います。在庫がある場合は、当月の仕入額と売上原価が一致しないことにも注意が必要です。


受託制作など、作業から売上計上まで時間がかかる業種では、単月の粗利と単月の労働時間が対応しない場合があります。そのときは案件完了時の累計や、3か月・半年など一定期間の累計も併用し、売上が計上される前のチームを低く評価しないようにします。


2.人件費が原価に含まれているかを確認する


製造業や一部のサービス業では、人件費の一部が売上原価に含まれることがあります。その粗利から同じ人件費をもう一度差し引くと、負担を二重に数えてしまいます。先ほどの計算例は、人件費が売上原価に含まれない前提でした。


自社の売上原価に労務費が入る場合は、会計上の粗利をそのまま使う目的と、人件費控除前の成果を見たい目的を整理します。管理用に組み替えるなら、元の会計数値から何を足し戻したかを示し、税理士等と確認した基準でそろえます。


3.総実労働時間に、間接作業も含める


顧客への請求対象になった時間だけで割ると、会議、準備、教育、社内事務が見えなくなります。チーム全体の生産性を見るなら、休憩を除く実際の労働時間を基本に、必要な間接作業も含めて集計します。勤怠と案件別の作業記録は目的が異なるため、混同しないことが大切です。


他部門への応援や兼務は、どちらのチームへ時間と費用を付けるかを決めます。時間はA、費用はBという状態では比較できません。部門別の集計や共通費の考え方は、部門別損益の管理方法でも説明しています。


生産性の数字を、改善策につなげるには


数字が下がったときは、すぐに人を減らすのではなく、どの条件が変わったかを確認します。売上単価、仕入条件、受注内容、作業時間、採用・教育のどこに変化があったかで、取るべき対応は違います。


経理の数字を現場の改善につなげる5つの手順

粗利率が下がったら、価格と原価の変化を調べる


労働時間が変わらないのに1時間当たり粗利が下がった場合は、値引きの増加、仕入価格の上昇、利益の薄い商品の構成比が増えた可能性があります。現場へ一律に作業スピードを求める前に、販売条件や仕入条件を見直す余地がないかを確認します。


価格改定を考える場合も、すべての商品を同じ割合で上げるだけが方法ではありません。追加作業を無料で引き受けていないか、少量注文の対応負担が大きくないか、契約範囲が曖昧でないかを整理します。実際の顧客対応と数字を結び付けることが、無理のない改善につながります。


時間が増えたら、手戻りや待ち時間を分ける


総労働時間が増えても、その中身が新人教育なら、将来の仕事を支える投資かもしれません。一方、同じデータの再入力や、資料不足によるやり直しが増えているなら、手順や依頼方法を変える余地があります。


最初は2週間程度、準備・本作業・確認・修正・社内連絡など、大まかな区分で作業時間を記録する方法もあります。細かい記録自体が負担にならないよう、調べたい工程に絞ります。「誰が遅いか」より「どこで止まるか」を話題にすると、改善案を出しやすくなります。


人件費の割合が上がっても、すぐに悪化と決めない


賃上げや先行採用で、人件費の割合が一時的に上がることがあります。受注残が増えている、教育を終えた人が来月から担当を持つなど、将来の粗利につながる見込みがあるかを確認します。


反対に、残業が続いているのに粗利が増えない場合は、受注条件や人員配置の見直しが必要かもしれません。全社の利益、現場の負担、今後の需要を並べて考えます。「人件費率は何%なら正解」と一つの数字だけで決めることは避けましょう。


毎月の管理は、1枚の表から始められる


初月から全従業員・全案件を細かく集計する必要はありません。まずは会社全体か、判断したい一つの部門を選び、売上・原価・粗利・人件費・労働時間を1枚にまとめます。前月と前年同月の数字を添えると、季節による違いも確認しやすくなります。


準備するもの

主な入手先・確認事項

売上・原価・粗利

月次試算表。計上漏れや在庫、部門区分を確認

人件費

給与台帳と会計。会社負担分や賞与の扱いを統一

総実労働時間

勤怠データ。残業、兼務、休憩の扱いを確認

数字が変わった理由

現場責任者。採用・教育・受注内容・臨時作業を確認

改善後の確認項目

時間、粗利、追加費用、ミス・納期などを設定


賞与がある月だけ人件費の割合が跳ね上がるなら、実際の会計数値に加え、年間見込みを月割りした管理用の数字を別に示す方法があります。その場合は「管理用の見込額」と明記し、実額と混ぜないようにします。資金繰りでは、実際に支払う月の資金が必要です。


会議は、数字をすべて読み上げる場にしなくても構いません。「今月大きく動いた点」「現場で確認できた理由」「来月までに試すこと」の三つを決め、担当者と期限を残します。改善策を一度に増やすより、一つずつ効果を確認したほうが続けやすくなります。


たとえば「請求前の確認資料を統一し、翌月末までに差し戻し件数を記録する」と決めれば、作業時間だけでなく品質の変化も追えます。目標は現状を測ってから設定し、数値が届かなかった場合も、手順に無理がなかったかを振り返ります。


自動化・経理代行に任せることと、社内で判断すること


会計・給与・勤怠のデータを取り込み、決めた部門コードで集計し、前月との差を計算する作業は、仕組み化を検討しやすい部分です。ただし、別のソフト同士で社員名や部門名が一致していないと、集計漏れや重複が起きるため、最初に項目をそろえます。


経理代行へ依頼する場合は、記帳だけでなく、人件費の集計、勤怠データとの突合、部門別資料の作成まで契約範囲に含むかを確認します。資料提出日、速報を出す日、未確定項目の確認担当も決めておくと、数字が出るまでの遅れを減らせます。


一方、価格を変えるか、採用するか、教育時間を増やすかといった判断は、経営者と現場が担います。集計結果だけでは、顧客との関係や従業員の負担までわからないためです。外部に数字の整理を任せる場合も、現場の事情を伝える役割は社内に残ります。


給与などの個人情報は、閲覧が必要な担当者に限定します。チームで改善を話し合う資料は、原則として部門合計などの集計値で足ります。AIで分析を補助する場合も、利用するサービスの取扱条件と社内ルールを確認し、氏名・個別給与を安易に入力しない運用にします。


よくある質問


経理データだけで、従業員個人の生産性はわかりますか?


十分にはわかりません。売上や費用はチームで生まれることも多く、教育、他部署の支援、難しい顧客対応などは数字に表れにくいためです。経理データは会社・部門の改善点を探す材料とし、個人の評価には役割や行動、品質なども含めた別の基準を設けます。


生産性の目標は、他社平均に合わせるべきですか?


最初は同じ基準で計算した自社の過去実績を使うと、変化をつかみやすくなります。他社平均は参考になりますが、業種、外注の割合、原価の範囲、人数の数え方が異なると単純に比較できません。数値の名称だけでなく、その作り方まで確認します。


経理や総務など、直接売上を作らない部署はどう見ますか?


無理に個人へ売上を割り振る必要はありません。月次締めまでの日数、処理件数、差し戻し件数、期限内に終わった割合などを、作業時間と合わせて確認します。速さだけを優先するとチェックが弱くなるため、正確性と業務が止まらない体制も大切にします。


外注を増やして1人当たり粗利が上がれば、改善ですか?


それだけでは判断できません。社内の人数や時間が減る一方、外注費や調整作業が増えることがあります。外注費が原価か経費かで粗利への反映も変わります。外注前後の総費用、社内の確認時間、利益、品質を合わせて比べてください。


数字を、働きやすさと利益を両立するために使う


従業員の生産性を確認する第一歩は、同じ期間・同じ範囲の粗利、人件費、労働時間をそろえることです。1人当たりと1時間当たりを並べ、数字が動いた理由を現場へ確認すると、価格、作業手順、人員配置のどこを見直すかが具体的になります。


数字が良くなっても、従業員の負担やミスが増えていれば改善が続かないこともあります。毎月の資料には、品質と働き方の変化も添えてください。集計そのものが目的にならないよう、一つの改善を決めて翌月に振り返る運用から始めてみてはいかがでしょうか。


品川・横浜 経理代行ステーションを運営する株式会社harborsでは、日常の経理処理に加え、経営分析ツールの導入や経営判断に使う管理体制づくりをご支援しています。粗利と人件費を部門別に見たい、毎月の集計に手間がかかるなどのお悩みは、現在の資料をもとにご相談ください。



※本記事は2026年10月16日に確認した公式情報を参考にした一般的な情報提供です。計算例・改善例は説明用の架空の数値であり、実際の支援実績や効果を保証するものではありません。指標の定義や原価・人件費の範囲は、業種・会社の状況により異なります。会計処理や人事評価等の判断は、自社の資料・規程を確認し、必要に応じて税理士等の専門家へご相談ください。


bottom of page