経理部門は企業の財務運営を支える重要な部門であり、その社員の退職は企業全体に多大な影響を与える可能性があります。特に中小企業においては、経理社員の数が限られているため、1人の退職が重大なリスクとなることが少なくありません。
経理社員が退職することとなった場合、どのようなリスクが想定されるでしょうか。事前にリスクを把握しておくことで、退職後の対処や対策も取りやすくなります。
ここでは、経理社員が退職した際に想定されるリスクや注意点について紹介しています。経理知識のない社員だけで対処できる方法についても解説していますので、会社の経理業務を検討する際の参考としてもお役立てください。
経理社員の役割と重要性
経理社員は企業の財務状況を把握し、適切な財務管理を行うために欠かせない存在です。以下に、経理社員の主な業務内容と、その重要性について説明します。
経理社員の主な業務内容
経理社員の業務は多岐にわたります。まず、会計業務として、日々の仕訳入力や帳簿記入、月次決算や年次決算の作成、財務諸表の作成といった業務があります。これらは企業の財務状況を正確に把握し、経営層に提供するための基盤となります。
次に、資金管理の業務です。これは資金繰りの管理や予測、銀行との取引や資金調達のサポートを行うもので、企業の運転資金を円滑に回すために重要な役割を果たします。
さらに、税務対応も経理社員の重要な業務の一つです。税務申告書の作成や提出、税務監査の対応など、企業が適切に税務処理を行うための業務を担います。
また、内部統制に関しても経理社員は重要な役割を担います。内部監査の実施や不正防止、コンプライアンスの徹底など、企業内の統制環境を整備することで、企業の信頼性を高めます。
最後に、予算管理の業務があります。予算の策定や実績の管理、コスト管理と経費削減の提案など、企業の効率的な経営をサポートします。
経理部門の組織内での位置づけ
経理部門は企業の中で経営戦略のサポートを行う重要な部門です。財務データを基に経営戦略を立案し、経営層に対して財務情報を提供することで、意思決定を支援します。
さらに、経理部門は法令遵守を確保する役割も担っています。各種法令や規制を遵守し、企業の社会的責任(CSR)を推進することで、企業の信頼性を向上させます。
リスク管理も経理部門の重要な役割です。財務リスクを予測し管理することで、不正防止や内部監査の実施など、企業の安定した経営を支える役割を果たします。
経理社員の重要性
経理社員が適切に業務を行うことで、企業は健全な財務運営を維持し、持続的な成長を遂げることができます。特に以下の点で経理社員の重要性が際立ちます。
まず、正確な財務情報の提供です。経理社員が提供する正確な財務情報は、経営判断の基盤となり、企業の方向性を決定する上で欠かせない要素です。
次に、法令遵守と透明性の確保です。経理部門が法令を遵守することで、企業の信頼性が向上し、取引先や顧客からの信頼を得ることができます。
最後に、リスク管理の役割です。経理社員が財務リスクを適切に管理することで、企業は安定した経営を維持することができ、不測の事態にも柔軟に対応できます。
経理社員が退職した場合に想定されるリスクは?
経理を担当している社員が退職した場合、以下のようなリスクが考えられます。
引継ぎがスムーズにいかないリスク
すべての経理社員が、半年や1年前など、余裕を持って退職の意向を伝えられる訳ではありません。2週間前や1ヵ月前など、やむを得ない理由があり、突然の退職を止められないケースもあるでしょう。
退職までの期間が短い場合、求人を出してもすぐに応募者があるとは限らず、採用しても引継ぎまでの時間が限られていることも多いものです。
引継ぎ期間が短いと、業務に慣れない新しい担当者の負担が増えることとなり、早期に退職する連鎖が続く可能性も高まってしまいます。
退職する社員にとっては、退職すると決まった時から業務に対する責任感が緩んでしまう場合もあるでしょう。こうしたことも、充分な引継ぎができない理由となりやすいのです。
経理業務の引継ぎが十分にできなかったために取引先への振込や従業員への給与計算、売上請求書などにミスがあり、会社内だけでなく取引先にも取り返しのつかない迷惑をかけてしまったという事例もよくあります。
業務の停滞と遅延
経理社員が退職すると、日常業務が滞りがちになります。
特に、月次決算や年次決算の時期に退職が発生すると、財務報告が遅延し、経営層やステークホルダーへの報告が遅れることになります。これにより、経営判断が遅れ、重要なビジネスチャンスを逃すリスクが高まります。
余分なコストがかかるリスク
引継ぎまでに余裕を持って採用したとしても、一時的に人手が多い状態となるため、引継ぎ期間中の人件費は高くなってしまいます。
退職する社員が相当なベテランである場合に、1人が担当していた業務を2人に振り分ける必要も出てくれば、コストの高い状態が継続することとなるでしょう。
ただ、一定の初期費用やコストを投入することで、経理業務の安定や安心に繋がるのであれば、必要経費であるという認識を持つことも大切です。
これまで経理社員への負担が大き過ぎなかったか、今後退職した場合のリスクを低減させる目的など、コスト感を見るには総合的に判断する必要があるでしょう。
企業会計原則へのリスク
企業会計は、「明瞭性」や「継続性」など、7つの会計原則を守って行われるべきであることが法令でさだめられています。
急にことなる会計処理や、継続性が途切れるような記帳や変更は避け、真実に基づいて処理することが大切です。
経理業務の引継ぎに問題があると、こうした会計原則が守られにくくなり、修正申告や税務調査のリスクにも繋がりかねません。
経理経験者といっても、会計の方法は企業によって大きくことなる場合もあります。
相当の経験や知識がない場合、経験者だからこそのミスや間違いなどが起こる可能性も考慮した方がよいでしょう。
内部統制の崩壊
経理部門は企業の内部統制を支える重要な役割を果たしています。経理社員の退職により、内部監査や不正防止の体制が弱体化し、不正行為の発生リスクが高まります。
また、新しい担当者が内部統制の仕組みを十分に理解していない場合、内部統制が機能しなくなる可能性があります。
財務情報の管理不備
経理社員が退職することで、財務情報の管理が不十分になるリスクがあります。
例えば、退職した社員が管理していた重要なデータやファイルが適切に引き継がれない場合、データの欠損や誤りが発生しやすくなります。これにより、財務報告の正確性が損なわれ、外部監査で指摘を受ける可能性があります。
知識とスキルの流出
経理社員が退職する際、その社員が持つ専門知識やスキルが企業から失われます。
特に、長年勤務していた社員が退職すると、企業特有の業務プロセスやノウハウが流出することになります。これにより、新しい担当者が業務を引き継ぐまでに時間がかかり、効率が低下するリスクがあります。
信頼関係の喪失
経理社員が退職することで、取引先や顧客との信頼関係が損なわれるリスクもあります。特に、経理社員が直接取引先や顧客とコミュニケーションを取っている場合、その信頼関係が失われることで、取引条件の見直しや契約の解消といった問題が発生する可能性があります。
このように、経理を担当する社員の退職には、さまざまなリスクが存在します。専門性の高い業務であり、間違いが信用問題となりやすい業務であるため、経理の引継ぎではこうしたリスクを避けることがより重要となるのです。
これらのリスクを最小限に抑えるためには、事前の準備と適切な対策が必要です。
退職後のリスク管理
経理社員が退職した後も、企業はそのリスクを適切に管理し、業務の停滞を防ぐための対策を講じる必要があります。退職手続きと引き継ぎの重要性、および外部リソースの活用について詳しく説明します。
退職手続きと引き継ぎの重要性
経理社員が退職する際には、詳細な引き継ぎプロセスを確立することが重要です。退職予定者が業務内容や進行中のプロジェクト、重要な取引先などを詳細に記録し、後任者に引き継ぐための文書を作成します。
引き継ぎ期間を設け、退職予定者と後任者が一定期間一緒に業務を行うことで、スムーズな業務移行を実現します。この期間中に、後任者は具体的な業務手順や注意点を直接学ぶことができます。
日常業務の手順や使用するシステムの操作方法などを記載したマニュアルを整備し、退職後も後任者が参照できるようにします。これにより、業務の標準化と継続性を確保できるでしょう。
退職後も一定期間、前任者と後任者が連絡を取り合う体制を整え、引き継ぎに関する疑問や問題が生じた場合に迅速に対応できるようにします。
外部リソースの活用
経理部門の専門家やコンサルタントを活用することで、業務プロセスの見直しや改善を図ることができます。特に、内部統制や財務報告に関する専門知識が必要な場合に有効です。
一部の経理業務を外部の専門業者にアウトソーシングすることも、リスク管理の一環として検討できます。アウトソーシングにより、業務の効率化とコスト削減が期待でき、また、突然の人材不足にも対応しやすくなります。
短期的な人材不足を補うために、経理の専門知識を持つ派遣社員を活用することができます。これにより、業務の継続性を確保し、急な退職による業務停滞を防ぐことができます。
併せて、クラウドベースの会計ソフトを導入することで、業務の効率化とデータの共有を促進します。クラウドソフトは複数のユーザーが同時にアクセスできるため、引き継ぎや業務の分担が容易になります。
社内リソースの最適化
複数の社員が同じ業務を担当できるようにすることで、退職時の業務停滞を防ぎます。これにより、特定の社員に業務が集中するリスクを軽減できます。
経理部門の全社員が最新の知識とスキルを維持できるよう、継続的な教育と研修を提供します。社員全体のスキルレベルが向上し、退職による影響を最小限に抑えることができます。
これらの対策を講じることで、経理社員の退職後も業務の停滞を防ぎ、企業の安定した運営を継続することが可能です。
経理社員が退職しても大丈夫!安心して任せられる対処法
経理社員や担当者が退職しても安心して営業を続けるためには、以下のような対処法を検討してみましょう。
経理代行へ相談する
経理担当者の退職が判明した時点で、まずは経理代行会社へ相談しましょう。これまで社内で処理していた業務のうち、経理業務のサポートを受けられる業務があるか、その場合のコスト感や引継ぎに必要な資料といった点について確認することが大切です。
経理のアウトソーシングなどに強く、代行実績の多い専門の会社であれば、退職までの日が短くてもすぐに対応でき、会社の規模や状況に応じたアドバイスを受けることができるでしょう。
担当社員の分散
総務経理やひとり経理で任せていた社員が退職する場合、すぐに新しい経理スタッフを雇用するということが考えられますが、良い人材をすぐに採用することは困難です。
将来的なリスクを低減させるためにも、担当社員を分散させる、または社長自身が経理を引き継ぐことをおすすめします。
1人が退職しても支障の出ない業務を増やすことで、引継ぎにかかる期間やボリュームを軽減することができるでしょう。
専門性の高い経験や知識を持つ社員でなくても担当できるようにしたり、時短や在宅といった形態も併用すれば、コストを抑えることも可能です。
ただし、担当社員や社長は経理業務が本来の業務でないため、本来の業務に支障が出るリスクが発生いたします。
コストとリスク両面の対策には経理代行がおすすめ
経理業務の引継ぎにかかるリスクやコストを低減する方法として、経理代行サービスを利用する方法もあります。
経理代行は派遣会社など、さまざまな企業がサービスを提供していますが、企業会計原則を守りつつ、信頼できる経理代行サービスを利用したいなら、経理代行会社へ依頼するのがおすすめです。
オンライン相談や無料相談などを利用して、コストとリスクの両面について、納得できるまで問い合わせてみてはいかがでしょうか。
まとめ
経理社員の退職は、企業の財務運営に多大な影響を与えるリスク要因です。本記事では、経理社員の退職がもたらす具体的なリスクと、それに対する対策について詳しく解説しました。
経理社員や担当者が退職した場合、引継ぎがスムーズにいかないリスクや、人件費などのコストがかかるリスクに加え、会計処理や給与計算、振込などの経理業務自体が正しく行われなくなるリスクもゼロではなくなってしまいます。
こうしたコストやリスクを回避するには、担当業務を分散させる、経理代行サービスの導入も検討するとよいでしょう。
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