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経理担当が辞めそうな時、社長は何を準備しておくべき?

10 分前
読了時間: 13分
経理担当が辞めそうな時、社長は何を準備しておくべき?

 

経理担当が辞めそうだと感じたら、社長が最初に準備すべきなのは、本人を問い詰めることでも、すぐ求人を出すことでもありません。まず「その人が明日から不在でも、支払・給与・請求・入金確認を止めないための情報」を会社側へ戻すことです。

 

具体的には、経理業務の一覧、直近の期限、利用システムと権限、取引先・税理士などの連絡先、判断が必要な例外取引を整理します。そのうえで、手順を簡潔に記録し、クラウド上の共有場所へ集約し、社内の副担当者か外部の支援先が一度代行できるか試します。

 

退職の意思が確定していなくても、この準備は無駄になりません。休職、急病、長期休暇、採用難にも使える業務継続の整備だからです。この記事では、退職前に優先すべき順番と、どこまで自動化・外注できるかを実務に沿って解説します。

 

退職の兆候がある時ほど、事実と推測を分ける

 

「最近休みが増えた」「引継ぎについて質問された」「転職サイトを見ていた」といった行動だけで、退職すると断定することはできません。社長の推測で本人を責めたり、権限を突然外したりすると、信頼関係や日常業務に悪影響が出る可能性があります。

 

一方で、経理を一人に任せたまま何も準備しないことも危険です。退職の確度とは切り離して、会社として必要な業務継続策を平常時の改善として進めます。本人との面談では、退職意思の詮索よりも、業務量、残業、属人化、休暇を取りにくい仕事、改善したい手順を確認します。

 

中小企業庁の中小企業BCP策定運用指針も、計画を作って終えるのではなく、日常的に運用し、見直す考え方を示しています。本来は災害なども含む事業継続の指針ですが、経理担当者が不在になっても重要業務を継続する体制づくりにも応用できます。

 

退職の兆候を理由に秘密裏にコピーを作るのではなく、「経理を休める体制にする」「誰か一人しか分からない仕事をなくす」という会社共通の改善目的を伝える方が進めやすくなります。

 

最初に守るのは、支払・給与・請求・入金確認の4業務

 

経理業務をすべて同じ優先度で引き継ごうとすると、時間が足りません。まず、停止したときに資金流出、信用低下、従業員への影響が大きい業務から確保します。

 

優先業務

最初に確認する情報

止めないための最低限の状態

支払

支払日、請求書、振込元口座、承認者

支払予定表と承認手順を共有できる

給与

勤怠締日、支給日、変更情報、委託先

締日から振込までの担当と期限が分かる

請求

請求締日、発行先、金額の根拠

誰が売上を確定し、誰が発行するか分かる

入金確認

入金予定日、口座、消込方法、未入金対応

入金差異と未入金を一覧化できる

税務・社会保険

提出期限、納付期限、専門家の連絡先

税理士・社労士へ必要資料を渡せる

 

 

この表の目的は、完璧な手順書を作ることではありません。「いつまでに、何を、どこから取得し、誰が承認するか」が別の人にも分かる状態を作ることです。

 

たとえば支払業務なら、インターネットバンキングの操作方法だけでは不十分です。請求書を受け取る場所、支払対象を確定する人、二重支払を防ぐ確認、振込データを作る人、最終承認者までが一つの流れです。口座の最終承認権限は社長など会社側に残し、担当者個人だけが実行できる状態にしないようにします。

 

給与も同様です。給与計算ソフトの入力だけでなく、勤怠締日、入退社や手当の変更を誰が連絡するか、計算結果を誰が確認するか、振込データを誰が承認するかを押さえます。退職予定者だけに質問を集中させず、現場責任者、顧問税理士、社労士、給与計算会社などから確認できる情報も集めます。

 

業務一覧は「頻度・期限・保管場所・判断者」で作る

 

引継ぎ資料というと、画面操作を細かく説明した分厚いマニュアルを想像しがちです。しかし、最初に必要なのは業務一覧です。業務が見えていなければ、重要な作業の漏れや、マニュアルを作る順番を判断できません。

 

一覧には、少なくとも次の項目を入れます。

 

  • 業務名と目的

  • 毎日・毎週・毎月・年次などの頻度

  • 締日、実行日、法定期限

  • 元資料の入手先と完成物の保存先

  • 使用する会計・請求・給与・銀行システム

  • 作業担当者、確認者、最終承認者

  • 不明点が出たときの相談先

  • 担当者不在時の代替方法

 

 

月次業務だけでなく、年末調整、法定調書、償却資産、決算資料の準備、契約更新、電子証明書の期限など、年に一度の作業も忘れやすい項目です。前年のカレンダー、メール、会計ソフトの履歴、税理士とのやり取りから拾うと漏れを減らせます。

 

一覧を作ったら「停止影響」と「次回期限」で並べ替えます。次回給与が5日後、通常の月次締めが20日後なら、給与を先に引き継ぎます。重要度が高くても当面発生しない決算業務は、資料の所在と税理士の連絡先を確保したうえで後工程に回せます。

 

マニュアルは一業務一枚から始める

 

マニュアルは、担当者の知識をすべて書き出すものではありません。別の人が同じ結果を再現するために、迷う場所と判断条件を残すものです。一業務につき、目的、入力、手順、出力、確認点、例外時の連絡先を一枚程度にまとめると更新しやすくなります。

 

たとえば請求書発行なら、「販売管理システムを開く」という操作だけでなく、売上を確定する資料、値引きや追加請求の承認者、送付方法、控えの保存先、誤りが見つかった場合の再発行ルールを記載します。画面が変わりやすいクラウドサービスは、長いスクリーンショット集より、判断点とデータの流れを中心に書く方が陳腐化しにくくなります。

 

録画を使う場合も、動画だけにしないことが重要です。必要な箇所を探すのに時間がかかるため、動画名、対象業務、所要時間、重要箇所の時刻を一覧にします。パスワードや個人情報が映り込んだ動画は共有範囲を限定します。

 

完成度を高める最も確実な方法は、作成者以外が実際に作業することです。副担当者が一度実行し、止まった箇所を追記すれば、説明不足を発見できます。読むだけの確認では、アクセス権限不足や例外処理の抜けが残りやすくなります。

 

権限管理は「共有」と「分離」を同時に行う

 

担当者しかログインできない状態は危険ですが、全員が同じIDとパスワードを使う状態も安全ではありません。必要なのは、会社がアカウントを管理し、利用者ごとに権限を付与し、作成・確認・承認を分けることです。

 

確認する対象は、会計ソフト、請求システム、給与計算、経費精算、インターネットバンキング、法人カード、共有ストレージ、メール、電子契約、税務・社会保険の電子申請などです。会社の契約名義、管理者、登録メールアドレス、二段階認証の受取先、復旧方法を一覧にします。

 

パスワードを表計算やメール本文へ直接書き並べるのは避けます。パスワード管理ツールなどを利用し、必要な人だけが確認できる形にします。退職が確定した後は、最終出社日や有給消化を踏まえて、アクセス停止、貸与端末の返却、転送設定、共有リンクの見直しを計画します。

 

IPAが2026年3月27日に公開した中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン第4.0版は、経営者が実施すべき指針と社内で実践する手順を示し、バックアップを含む基本対策を案内しています。引継ぎを急ぐ場合でも、権限を広げすぎず、ログとバックアップを確保することが必要です。

 

クラウド化は保存場所の統一から始める

 

クラウド会計を導入しただけでは、属人化は解消しません。領収書が机の中、請求書が個人メール、支払予定が担当者のExcel、手順が口頭のままなら、情報は分散したままです。

 

最初に決めるのは「正本をどこに置くか」です。請求書、領収書、契約書、支払予定表、給与関連資料、月次資料について、保存先、フォルダ名、ファイル名、更新者、閲覧権限を統一します。電子取引データの保存では、税法上の要件も確認する必要があります。国税庁の電子帳簿等保存制度特設サイトで最新の制度情報を確認し、顧問税理士にも自社の保存方法を確認してください。

 

次に、銀行口座やカード、請求システムから会計ソフトへの連携を検討します。自動連携は転記作業を減らせますが、取引内容の説明、勘定科目、部門、税区分、未確定取引の判断まで自動で正しく決まるとは限りません。自動取得と人の確認を分けます。

 

共有場所を決めた後は、別の担当者が必要資料へ到達できるか、退職予定者の個人アカウントを停止してもデータが残るか、バックアップから復元できるかを確かめます。クラウド化の目的は、場所を変えることではなく、会社が継続して情報を管理できる状態にすることです。

 

退職前に進める5つの手順

 

  1. 直近30日以内の締日・支払日・提出期限をカレンダーに集める

  2. 経理業務を一覧化し、停止影響と次回期限で優先順位を付ける

  3. システム・口座・保存先・専門家の連絡先を会社管理へ戻す

  4. 優先業務の簡易マニュアルを作り、副担当者が一度実行する

  5. 社内で足りない作業を自動化・外注し、月1回見直す

 

 

経理担当の退職に備える5つの手順

 

 

5つの手順は、必ずしも一つずつ完全に終えてから次へ進む必要はありません。給与や支払の期限が近い場合は、期限確認と権限確認を並行して進めます。ただし、誰が何を承認するかは曖昧にしないでください。

 

また、退職が確定した場合は、就業規則や社内規程に沿って人事対応を行います。引継ぎを理由に、法令や社内ルールを超えた一方的な要求をしないよう注意が必要です。必要に応じて社会保険労務士や弁護士などへ相談します。

 

改善前と改善後では、社長の役割が変わる

 

従業員15人の会社で、経理担当者一人が請求、支払、給与資料、会計入力を担当していたとします。改善前は、請求書が担当者のメールに届き、支払予定表はローカルPC、銀行の振込データも担当者だけが作成していました。社長は月末にまとめて承認するだけで、処理の途中経過を確認できません。

 

改善後は、請求書の受取先を共有化し、支払予定表をクラウドへ移し、提出締日と承認日を固定します。給与は勤怠確定者と計算者を分け、会計入力は自動連携と外部支援を利用します。社長は個々の入力ではなく、支払の最終承認、例外取引、未入金への対応方針を判断します。

 

この会社で経理担当者が休んでも、副担当者が支払予定を確認し、外部支援先が記帳を継続できます。新しい担当者を採用した場合も、業務一覧と共有データがあるため、ゼロから聞き直す範囲を減らせます。

 

ただし、外注すれば社長の責任がなくなるわけではありません。取引の実在性、支払の可否、資金配分、取引先との交渉、従業員情報の変更など、会社固有の判断は社内に残ります。

 

自動化・外注できることと、社内に残すこと

 

業務

自動化・外注しやすい範囲

社内に残す判断・役割

証憑回収・記帳

OCR、口座連携、入力、残高照合

取引内容の説明、例外の承認

請求・入金管理

請求書作成、送付、消込、一覧更新

金額確定、値引き、督促方針

支払

支払予定表、振込データ作成

支払可否、最終承認、実行権限

給与

勤怠集計、計算、明細発行

人事情報確定、計算結果の承認

月次・資金繰り

資料収集、表の更新、差異抽出

投資、借入、資金配分の意思決定

 

 

外注先を選ぶ際は、担当者が休んだ場合のバックアップ、データの保管場所、権限管理、契約終了時の返却方法、顧問税理士との連携を確認します。現在のやり方をそのまま外へ出すだけでは、社内の資料準備や確認負担が残ることがあります。業務一覧をもとに、前工程から見直せるかを確認しましょう。

 

経理担当者がすでに退職し、引継ぎがない場合は、経理の引継ぎがないまま退職されたときの対応を参考にしてください。退職を機に外注へ切り替えるか検討する場合は、経理代行へ切り替える判断基準で費用や範囲を整理しています。

 

退職前の準備で得られるメリットと注意点

 

最大のメリットは、期限のある業務を止めにくくできることです。支払遅延、給与計算の混乱、請求漏れ、月次決算の遅れを防ぎやすくなります。担当者本人にとっても、休暇を取りやすくなり、質問や例外処理を抱え込む負担を減らせます。

 

採用面でも効果があります。業務量と必要なスキルが見えるため、「経理経験者を一人採用する」という曖昧な募集ではなく、請求・支払の実務が必要なのか、月次決算まで任せたいのかを明確にできます。外注と採用を組み合わせる判断もしやすくなります。

 

注意点は、準備を退職者だけの責任にしないことです。日常業務を続けながら大量のマニュアルを短期間で作らせると、重要業務が遅れたり、関係が悪化したりする可能性があります。社長が優先順位を決め、副担当者が検証し、必要に応じて外部支援を入れます。

 

また、権限を共有する際は、個人情報や口座情報を扱う範囲を必要最小限にします。閲覧、入力、承認を分け、操作履歴を残します。利便性だけでなく、不正や誤操作を防ぐ内部統制も同時に考えます。

 

社長が確認するチェックリスト

 

  • 30日以内の支払日、給与日、請求締日、提出期限が一覧になっている

  • 銀行・会計・請求・給与システムの管理者を会社が把握している

  • 二段階認証とアカウント復旧の方法が担当者個人に依存していない

  • 重要データの正本とバックアップの保存先が決まっている

  • 支払データ作成者と最終承認者が分かれている

  • 税理士、社労士、銀行、主要取引先の連絡先が共有されている

  • 優先業務のマニュアルを作成者以外が一度試している

  • 担当者不在時の副担当者または外部支援先が決まっている

  • 退職確定後のアクセス停止と端末返却の手順がある

  • 業務一覧と権限を月1回または組織変更時に見直している

 

 

すべてを一週間で完成させる必要はありません。まずは直近の給与、支払、請求、入金確認を守り、その後に月次決算や年次業務へ広げます。チェックが付かない項目には担当者と期限を入れ、誰かの頭の中だけに残さないことが大切です。

 

よくある質問

 

退職の意思が確認できていなくても準備を始めてよいですか?

 

始めて構いません。ただし、本人を退職予定者として扱うのではなく、休暇や急病にも備える業務改善として進めます。面談では推測をぶつけず、業務量、休みにくさ、改善案を確認してください。

 

何からマニュアルにすればよいですか?

 

次回期限が近く、停止影響が大きい業務からです。一般には給与、支払、請求、入金確認が優先されます。操作手順より先に、元資料、期限、保存先、確認者、承認者、例外時の相談先を記載します。

 

パスワードを引継ぎ資料に書いてもよいですか?

 

パスワードを通常の文書やメールへ直接記載するのは避けます。会社管理のパスワード管理ツールなどを利用し、利用者ごとのアカウントと権限を設定します。共通IDが避けられないサービスは、管理者、変更時期、二段階認証、操作履歴を確認してください。

 

後任を採用するまで、経理代行へ一時的に依頼できますか?

 

事業者によっては可能です。記帳、請求、支払予定表、入金管理など定型業務を外注し、支払承認や取引判断を社内に残す方法があります。短期契約の可否、初期設定、最低契約期間、データ返却、税理士連携を確認してください。

 

顧問税理士へ全部引き継げますか?

 

税理士事務所の契約範囲によります。決算・申告・税務相談を中心にする事務所もあれば、記帳や給与計算などを受ける事務所もあります。請求書発行、支払、入金確認まで含まれるとは限らないため、業務一覧を見せて対応範囲と追加料金を確認します。

 

退職後に気づいた場合はどうすればよいですか?

 

まず支払、給与、請求、入金確認の期限と権限を確保します。その後、税理士などの関係者へ連絡し、過去メールやシステム履歴から作業を復元します。具体的な初動は、経理担当が突然辞めたときに最初に行うことで詳しく解説しています。

 

退職の確度より、止まらない経理体制を先に作る

 

経理担当者が辞めそうな時、社長が準備すべきなのは、退職の予想ではなく、会社が管理すべき情報と判断経路です。直近の期限を押さえ、業務を一覧化し、簡易マニュアルを作り、権限とデータを会社管理へ戻します。そのうえで、副担当者による実行テスト、自動化、外注化を進めます。

 

品川・横浜 経理代行ステーションでは、経理業務の棚卸し、引継ぎ設計、クラウド運用、記帳・請求・支払管理など、必要な範囲を整理したうえでご案内しています。退職が確定する前に経理体制を整えたい場合や、社内だけで引継ぎを進めるのが難しい場合は、お問い合わせページからご相談ください。

 

※本記事は2026年9月21日時点の公的機関・公式情報をもとにした一般的な解説です。個別の労務対応、税務判断、情報セキュリティ対策については、社会保険労務士、弁護士、税理士などの専門家へご確認ください。利用するクラウドサービスや外注先の契約条件も個別にご確認ください。

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